外国人差別……だったのか?
先日、ちょっと残念な出来事に遭遇しました。
ザンクト・ガレンでは、現在OLMA(オルマ)という大規模な展示会が行われています。
元々はOstschweizerische Land-und Milchwirtschaftliche Ausstellung(東スイス農業・乳業展示会)という名前のイベント。
農業・乳業をはじめとした食品はもちろん、現在は工業製品や日用品を含め、色々なものが紹介されます。幕張メッセのような場所で、地域の企業がブースを構えているイメージです。
豚レースや牛の販売などスイスっぽい(?)イベントも有名。
毎年10月に2週間にわたって開催されるこのイベント。
会場内外にも沢山スタンド(屋台)が出て、移動遊園地も出現。
この地域のお祭りのような感じで、みんながこの時期を楽しみにしています。私も周りから話を聞いて、とっても楽しみにしていました!
先週の木曜に開始したOLMA。
私も早速、金曜日の夕方、夫と義妹、その友人たちと合流して会場近くへ。この日は外のスタンドで飲み明かす日です。
以前から夫や知り合いに「OLMAって何するの?」と聞くと、「豚のレースや企業の展示があって……お酒を飲むんだよ!(強調)」と説明されていたので、これも正しい楽しみ方なのだと思います(ちゃんと翌日にOLMAの展示会も見に行きました。笑)。
夜も更けてきて、テントの中がクラブのようになっている場所があるので、みんなでそこに入ろう、ということに。
入口にはガードの人が立っていて、IDカードを見せなければいけません。幼く見える人はそれで年齢確認をしている様子。
列に並んで待ち、私の番が来て、滞在許可証を見せたところ……ガードの人が「Nein!」
スイス人が持っているIDと、外国人に発行される滞在許可証は、少し見た目が違います。
生年月日もスイス人IDはオモテ面、滞在許可証はウラ面で記載場所が異なっています。
(上がスイス人ID、下が滞在許可証。画像は他所からお借りしました)
夫が「公式にスイスから発行された証明証だ!」と説明しても、私が生年月日の欄を示そうとしても「Nein!」を繰り返すだけで、のれんに腕押し。
生年月日が分かりにくかったのかも……と思いたいですが、ちらっと見ただけですぐに「Nein!」だったので、IDの見た目が違うだけでシャットダウンされた気がします。
でも、スイスは移民も多いので、外国人用の滞在許可証は知っているでしょう? と思うし、絶対に私以外で同様の証明証を提示する人もいたはず!
単にめんどくさかったんでしょうか。。。
結局、すでにゲートを通っていた義妹や友達も出て来てくれて、入場は諦めることに。
全然大したことではないのですが、私が入場不可のためにみんなが入れないことも申し訳ないし、少しショックで涙が出て来てしまいました。。。
周りのみんなは「そいつを殴りに行こうぜ!(ジョーク)」、「その人がblöd(よくない言葉ですが、stupid的な意味)なだけだから、気にしないで!」「美穂はスイスにWELCOMEだよ!」と声をかけてくれて。
特に義妹が何度も声をかけてくれて、「気にすることないよ」「美穂は何も悪くないんだから、謝るのはやめて!」と優しく励ましてくれました。
夫は「あのブースはラジオ局の運営だから、電話で抗議する!」と怒ってくれました。
もう、なんだかそれも有り難くて、涙(しつこい)。。。
結局、その後は他のブースに入場。そこはちゃんと私の滞在許可証でも入ることができ、楽しく深夜まで飲み、踊って楽しみました!
そんな感じで、思いもよらないところで「私が外国人だから?」という残念な体験をした今回。
でも思えば、スイスに越して来てからの6ヶ月間でそんな思いをしたのは初めてだったので、むしろかなり珍しいというか。
「これまでそんな体験をしていないなんて、恵まれているな!」 とも、正直思います。
ヨーロッパは歩いているアジア人に「ニーハオ♪」と言ってからかってくる輩がいたりするのは普通だと思っているし、フランスやイギリスではもっと短い滞在で即・何らかの体験はしたので。大体、外国人に対してそういう対応をしてくる人は、チンピラ風というか、現地では残念な感じの人なので、そこで落ち込む必要はありません。
ちょっと口が悪くなりました。
一応、初めてスイスで「外国人だから?差別??」という体験をしたお話でした。
でも他の人はとても優しく紳士的だし、
私はスイスを嫌いになりません。
むしろ励ましてくれた人たち、ラブ。
そしてついでに、フランスもラブです!(関係ない)
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「クマイヌ学習帖」さんでご紹介していただきました!
私のブログを、クマノイヌコさんがブログ「クマイヌ学習帖」で紹介してくださいました!
クマノイヌコさんは、はてなブログサービスがブロガーに提供する「ブログチャレンジ」のお題をひとつずつクリアしていくことに挑戦されていて、今年8月19日にチャレンジスタートされて以来、見事に有言実行でバシバシ記事を公開されています。
読者数も、付くスターの数も自分よりも桁違いに多い「クマイヌ学習帖」さんで、「お手本にしたいブログ記事10選」に選んでいただけるとは!
通知を見て「ん? 私のブログが引用されている? (引用されるのも初めてでした)」と思い、クリックしてみて、とっても嬉しい気持ちになりました。
文章と写真について褒めていただけること、美術関連の記事を取り上げてくださったことも、ブロガー冥利につきます。
本当はこういうことはすぐに記事にするべきだったのですが、少し遅れてのご報告となってしまいました。。。
私もこれからもブログ、頑張ります。
クマノイヌコさん、ありがとうございました!
そして「お手本にしたいブログ」ということで、私の頭の中に浮かんだブログがひとつ。
数年前、まだ夫とも遠距離恋愛中だったころ、購読させていただいているブログがありました。
現在は更新をストップされており、事情を存じ上げないのでリンクは貼りませんが、スイスドイツ語圏に在住の日本人女性のブログ。
娘さんのことを含めた、スイスでの日々の生活を中心に綴っていらっしゃいました(またこの娘さんがとても可愛らしい)。
写真と文章からお人柄が伝わってきて、とても知性的で賢く、優しく、またセンスの良い大人の女性なのだということが分かりました。
生活の温もりというか、ご家族とあたたかな生活を送っていらっしゃることも伝わってきて。その方にとってはリアルな生活なのですが、私にとってはメルヘンのような、じわっとしたあたたかさを感じる世界がそこにありました。
当時はまだ、夫といつかは結婚するのかなという予感はありつつも、特に話が決まっていたわけでもなかった私。そんななか、「スイスにはこんなに素敵な日本人女性がいて、素敵な生活を送っていらっしゃるんだ」と憧れつつ、「私もいつか、こんな女性になれたらいいな」と夢想していました(ちょっと素養が足りない気もしますが、憧れということで、ご愛嬌)。
そんなささやかなファンだった私、スターをつけてみるだけで、結局コメントはできなかったんじゃないかな。
いつか、スイスのどこかであの方とすれ違うことができたら嬉しい。現在でもそう思うような、素敵なブログでした。
そんなことを、昨日ふとそのブログを読み直していて、考えていました。
私、お気に入りのブログや面白いブログは、結構頻繁に過去記事も振り返って読んだりしています。ブログ主さんたちが気づいたら結構怖いと思うので、足あと機能的なものが設置されていないことを祈る ^^;
最近、自分のブログの更新頻度が少し落ちていました。
「ある程度のクオリティがある記事を書きたい」という思いから、何となく長文記事にこだわるようになっていた気がする。
でも、その憧れのブログを再訪してみて、長文でなくても、素敵なブログは素敵だし、たくさんのことが伝わってくるものなのだということに気づきました。
その方のような成熟した女性でもなければ、素敵な生活を送れている自信もありませんが……。日々の生活のちょこっとした事柄や気づきも含めて、もう少し肩の力を抜いてブログ記事を書く機会も増やしていこうと思います。
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移住後クライシス第1弾?
4月下旬にスイスに移住してきてから、もうすぐ半年が経とうとしています。
思えばこの1ヶ月、胃痛が人生で一番ひどくなったり(病院で薬をもらって、今はかなりマシに。でも全体的に胃が過敏?貧弱?になった気がする。一気に食べれる量が減った。そのわりに妙な食欲を感じる日も出現)、自分のドイツ語力のなさ+成長のペースに焦ったり、色々な面でフラストレーションを感じている。
ドイツ語学習はこうなると悪循環で、焦ってなかなか手につかない&モチベーションの低下を感じるように。
日本語の映像や文章に癒しを求めて、ついついスマホやPCにかじりつきがちになっている〜。
さらに何かイベントごとがあると、「ドイツ語勉強する時間がない〜!」「家を掃除して、色々準備しなきゃ!」と焦りまくる。本当はリラックスしてやれば大したことではないのに。
今週は誕生日3連チャンだったので、「色々そこそこに、せっかくなら楽しもう!」と自分に言い聞かせていたものの、内心かなり焦っていました。
思えば、夫にも身体的・精神的な不調を訴えがちに。それでプレッシャーをかけてしまっていたようで、夫婦喧嘩もしてみたり。。。
思えばこれ、海外移住者が(多分ほとんど)かならず迎える、移住ショックないし移住クライシス的なものなのでは!?
自分は元々ヨーロッパも好きだし、遠距離恋愛時代からスイスの様子は見ていたし(そして不安要素は大体上げつくした上で嫁いできたつもり笑)、夫の家族や友人と親しくなってからの移住&結婚なので、「そこまでショックは大きくないだろう」と思っていた。
実際、スイス人と日本人はどこか似ていて通じやすいところがあると個人的には思うし(義家族にも恵まれている)、インフラも整っていて、他の国ではもっと日常的に起こるであろう、理不尽な体験もしていない。
それでもやはり、生まれ育った国とはかなり異なる土地&文化の中に身を置いて生活をし、それなりに馴染もうと努力をし続けるというのは、結構なストレスだったのだと思う。
語学や将来的なことも、日常的にふと考えて不安になることが多い。
ある程度やったつもりの英語でも分からないことは多いし、ネイティブやペラペラの人との会話は難しい(さらにドイツ語学習の弊害? か、単語力が最近めちゃくちゃ低下している)。
なのに、ドイツ語で難なくコミュニケーションできるようになるまでどのくらいかかるの? っていうかそんな日はやってくるの!? とか。
夫に経済面を支えてもらっている今、「私が働けたら家計にもっと余裕ができる」と思う。ドイツ語学校がある程度のレベルまで終わったら働かなくちゃと考えてはいる(本当はC1を目指したいけれど、B2修了のところで一度考えるべきかな、と思っている)。
でも、本当に仕事が見つかるの? 職種は? スイスの職場に馴染んで働くことができるの? とか。
今のアパートは気に入っているけれど、バルコニーなし&庭なし。夫は猫を飼うのが希望だし、いつか、多分近いうちに引っ越さなきゃいけないだろうな〜 とか。
都市部は税金も高いらしく、そのうち住む街ごと動かなきゃいけないかもしれない。でも車も子供もいない現在、スイスの田舎に移って楽しく暮らせるのか? という疑念は消えない(夫が転職しない限り無理だけど、できればもうちょっとチューリッヒ寄りに住みたいとさえ思っている)。
とりあえず、スイスに移住してきて環境が総がわりした後、やっと慣れてきたところですぐに引っ越しをしたくはない。でも、家賃を下げたらもっと貯金ができるし、夫が可愛がっていた実家の猫ちゃんが亡くなって悲しがっているので、猫を飼うという夢は叶えてあげたいんだよね。。。
こんな思いが、毎日頭の中に去来する。
そんなもやもやとした色々が、フラストレーションとして溜まって、爆発寸前になっているような感じ。
だからといって「できるだけ日本式に暮らす!」というのは難しい。それに自分としても、ここで止まらずに、スイスの環境で頑張りたいとも思う。
自分に合ったバランスを見つけて、もっとリラックスしながら暮らせるようになりたいな。そうしたら、うまく回り始めるんじゃないかなぁ。
こうやって自分を振り返って考えてみると少し落ち着きはするけど、それでもやはりモヤモヤな気持ちはまた膨らんでくるのです。
この移住後クライシス、時間が経つと収まる(そして再来する?)ものなのかな?
昨晩、「ドイツ語は色々手をつけるよりも、絞ってやった方が自分にはいい!」と気づき、今朝から自作の単語帳を見直すつもり満々だったのに、このブログを書き始めたらもう出かけなければいけない時間になりました。。。てへ。
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「ロベール・ドローネーとパリ」展@チューリッヒ美術館
先日、チューリッヒ美術館(Kunsthaus Zürich)で開催中の「ロベール・ドローネとパリ」展(Robert Delaunay und Paris / Robert Delaunay and The City of Lights)に行ってきました。
開催期間は2018年8月31日〜11月18日。ドローネーは好きな画家の一人&美術関係に飢えていたので、早めに行ってきました。ザンクト・ガレンにもミュージアムはありますが、正直に言って、やはりチューリッヒ方面はクオリティが違います。
今回の企画展はスイスで初めてとなる、ドローネーの包括的な展覧会。初期から晩年まで、代表的な作品を中心に、彼の画業と作品の魅力を知ることができる構成になっていました。
ヨーロッパ・アメリカの有名美術館からの出品も多く、作品の借り出しの面では日本の美術館よりもスイスの美術館の方が有利だよなぁ、と思ったり。
チューリッヒ美術館の基本情報はこちら。
- ロベール・ドローネー
- ロベール・ドローネーとパリ
- 肖像画
- サン・セヴラン教会の連作
- 「都市」のシリーズ
- 「窓」と「円形フォルム」の連作
- 「エッフェル塔」シリーズ
- スポーツとオリンピック
- パリ万国博覧会(1937年)
- 今回、お気に入りの作品
ロベール・ドローネー
ロベール・ドローネー(1885-1941)はフランス・パリ出身で、1900〜30年代に活躍した画家。世代的にはピカソと被る世代です。ピカソの方がずっと長生きだけれど。
フォービスムや分析的キュビスムを経て、1912年に妻のソニア・ドローネーらと共にオルフィスム(Orphism)運動を打ち立てます。オルフィスム絵画はキュビスムに影響を受けた幾何学的な構図をもちながら、当時のピカソやブラックの抑制的な暗い色調のキュビスムとは異なる、明るくクリアな色彩が特徴。
ドローネーは、スーラにも影響を与えたシュブルールの色彩理論書『色彩の同時的対比の法則』も研究していたそう。「同時性」(simultaneity)、空間と時間の分割をテーマに、画家が対象物を観察したその「見る」プロセスそのものを、色彩対比と幾何学的構成によって、画面上に表現しようと試みました。これは「開いた窓」にも喩えられた従来の絵画=現実世界の空間を切り取って表現するものとも異なる、先鋭的な試みだったと言えるのではないでしょうか。
このように、抽象的な絵画を、純粋な色彩と光の効果の側面から追求したドローネーは、フランス抽象絵画の先駆者とも言えるでしょう。
ロベール・ドローネーとパリ
彼の好んだモチーフの一つが、近代都市・パリ。近代的な都市と、その発展を支えた技術的革新がもつ力を讃えるように、パリのモチーフを多く描きました。あとでご紹介しますが、エッフェル塔を描いた作品が非常に有名です。美術館の入口ホールにも、それを象徴するようにエッフェル塔が飾られていました。
今回の展覧会もドローネーとパリの関係に焦点を当てたもので、ドイツ語タイトルは「ロベール・ドローネーとパリ(Robert Delaunay und Paris)」、英語タイトルは「ロベール・ドローネーと光の都市(Robert Delaunay and The City of Lights)」になっています。
展覧会会場に足を踏み入れると、ドローネーが晩年にパヴィリオンの計画を手がけた、1937年のパリ万国博覧会の当時の会場地図が大きく引き伸ばされて登場。20世紀前半のフランス美術&パリ好きの私としては、ちょっとテンションが上がります。
ここからは、少しダイジェストで内容をご紹介します。
オススメの展覧会なので、可能ならば、実際に会場でドローネー作品を堪能してもらえたら嬉しいです!
肖像画
肖像画のセクションでは、友人であるジャン ・メッツァンジェ(Jean Metzinger)と互いを描き合ったという肖像画と自画像を中心に、印象派、新印象派の技法からフォービスム、そして初期キュビスムへという、ドローネーの初期の様式の変化を辿ることができます。
フォービスムの画家たち、アンドレ・ドラン、アンリ・マティス、モーリス・ド・ヴラマンクも、同時期に互いの肖像画を描いていました。若い画家同士がお互いを描くというのは、この時代よく行われていたこと。モデル代がかからず、常々そばにいる友人を描くというのは理に適ったことでもあるし、親交を示す意もあったでしょう。こうした作品には、彼らの様式的な挑戦や、交流の一端をかい間見ることができる、今見ても面白い作品が多いです。
サン・セヴラン教会の連作
« Saint-Séverin » 1909 Watercolour and pencil on paper Museum of Fine Arts, Boston. Bequest of Betty bartlett Mc Andrew
ゴシックの教会(パリのカルティエ・ラタンのサン・セヴラン教会)を描いた連作のコーナーでは、初期のドローネーが、時間によって変化する教会内部の光の効果を研究していたことが示されます。まだ抑制的な色彩を使用していましたが、少しずつ明るいトーンの色彩を取り入れ始めたことも分かる。各時間によって異なる光の印象を研究した、印象派・モネの有名な大聖堂の連作を思わせる試みでもあります。
「都市」のシリーズ
« La Tour Eiffel » Oil on canvas Solomon R. Guggenheim Museum, New York. Solomon R. Guggenheim Founding Collection, by gift
そして1909年に始まった「都市」のシリーズ。一枚のパリのポストカードを元にしたのが始まりで、パリの都市風景を描くようになったドローネー。エッフェル塔や、当時シャン・ド・マルス公園にあった観覧車などが登場します。
ドローネーは近代性を示すと同時に、広大な空間、そして外気と光を描くことができるモチーフを好んだようです。後にも繰り返し描くことになるエッフェル塔は、ゴシック教会と同様、フランスのシンボル的な存在でもあります。
「窓」と「円形フォルム」の連作
一方で、現実に存在する物を描く対象としない、純粋抽象的な作品にも取り組んでいたドローネー。
1912年の「窓」シリーズでは、前述した「同時性」の概念に基づき、画家が対象物を「見る」、そのプロセス自体をキャンバス上に定着させようとします。この頃から、従来のキュビスムとは異なる、ドローネー独自の明るい色彩があらわれてきます。
光と空間、動き(ムーブメント)の相関を、色彩のコントラストによって表現するこの試み。実は、同じくアーティストでもあった妻、ソニア・ドローネーが息子のために作った、パッチワークのおくるみにインスピレーションを受けて始まったものでした。ちょっと微笑ましいエピソードな気がしませんか?
心が休まって明るくなるような色調で、抽象画で特定のモチーフがないので飾りやすい。「こんな絵が家にあったら素敵だな〜」と一番思った作品でした。現代的なおうちにも絶対に合うと思うんです。
また「円形フォルム(circular forms)」の連作では、太陽と月の光を観察。「太陽」を表す部分では、より強いコントラストを示す色彩によって、動的な効果を表現。「月」を表す部分では、柔らかな寒色を段階的に使用することで、より調和的な色調の変化を示しました。
「エッフェル塔」シリーズ
1920年代半ばの「エッフェル塔」のシリーズで、第一次世界大戦前に描いていたモチーフへと回帰したドローネー。この時代の作品では、より安定した、確固たる存在として描かれるようになったエッフェル塔。まるで空の上から見下ろしたような垂直的な構図も、動的な効果を感じさせるとともに、エッフェル塔の存在感をより強調するものになっています。
1925年にパリで開催された万国博覧会(現代産業装飾芸術国際博覧会。アール・デコ様式を象徴する万博としても有名!)では画家のフェルナン・レジェ(Ferdinand Léger)と共に、観光パヴィリオンの装飾を担当したドローネー。もちろん、エッフェル塔をそこにも取り入れました。万博で発表した縦4メートルの大作《都市パリ、女性とエッフェル塔》の習作も今回出品されています。
スポーツとオリンピック
« Les coureurs » 1924-1925 Oil on Canvas Private Collection
悲惨な結果となった第一次世界大戦後、若さと競争を象徴するスポーツは人々を熱狂させ、1924年にはパリでもオリンピックが開催されました。
都市のダイナミスムを描くアーティストは、躍動感あるスポーツにも惹かれるものなのでしょうか。ドローネーは当時の画家としては珍しく、スポーツを主題にした作品も残しています。
写真の作品もパリ・オリンピックの時期に描かれており、題材は中長距離走。この種目は1920年のアントワープ・オリンピックでフランスが金メダルを獲得して以来、フランスで人気を得ていました。また、1912年から1952年まで、実はオリンピックと並行して、絵画・彫刻・建築を対象としたコンペティションも開催されていました。ドローネーが参加を考えていたかは不明ですが、オリンピックの広告看板のデザインを残しています。
パリ万国博覧会(1937年)
1930年代には抽象に回帰し、先にご紹介した「円形フォルム」の作品を思わせる、リズムを感じさせるディスク様の形態の連なりを描くようになっていたドローネー。しかし1937年のパリ万国博覧会の鉄道パヴィリオン、航空パヴィリオンの壁画計画には再び、パリのモチーフが登場します。1935年から長期にわたって妻・ソニアと共に取り組んだこの計画は、彼の晩年の最大プロジェクトです。
« Air, fer, eau » 1937 Oil on Canvas The Sam and Ayala Zacks Collection in the Israel Museum, Jerusalem, on permanent loan frim the Art Gallery of Ontario
今回の展覧会でも習作が出品されている《空気、鉄、水》は、ドローネーに特徴的な明るい色調の円形のフォルムの中に、蒸気を思わせる白い形態、鉄による建造物、パリの美しさを象徴する三美神、セーヌ川と橋、そしてエッフェル塔が配置されています。この《空気、鉄、水》はドローネーの絵画的探求、そして彼が愛した「パリ」のモチーフが凝縮した、集大成的な作品と言えるでしょう。会場には複数の習作があるので、各部分とそのつながりが、構想過程でどのように変化していったのかを見ることもでき、面白いです。
Robert / Sonia Delauney « Esquisse pour la Palais de l'Air, Exposition Internationale de 1937 » 1937 Gouache on paper Skissernas Museum - Museum of Artistic Process and Public Art, Lund
上はドローネーが妻ソニアと共に手がけた、航空パヴィリオンの構想図。1937年に既にこんなに近未来的なデザインがされていたのか! と少し驚かされました。現代のアメリカの博物館とか、こんな感じのものがありそうじゃないですか?
画家による壁画の構想ではなく、建築空間の全体的な構想を示した作品を見る機会は少ないので、結構レアな作品だなと思い。意外な収穫的な作品でありました。
今回、お気に入りの作品
長い記事になってしまいましたが、最後に個人的にお気に入りの2枚をご紹介。
« Le poète Philippe Soupault » 1922 Oil on canvas Centre Pompidou, Musée national d'art moderne - Centre de création industrielle, Paris. Achat 1978
《詩人 フィリップ・スーポー》 1922年
フランスの詩人でシュルレアリスム運動にも参加(後に除名)した詩人・著述家のフィリップ・スーポーの肖像画。1920年、彼はドローネーに「風の薔薇(Rose des vents)」を、「私が観覧車を知り尽くしているように、エッフェル塔を知り尽くしているロベール・ドローネーへ」と記して捧げました。
そんなスーポーの肖像画には、典型的なパリのアパルトマンのベランダ、窓、そしてエッフェル塔が登場。この「パリ!」という感じと、ダンディなスーポーの佇まい、そして崩れそうで崩れない、絶妙で不思議なバランスの構図がたまりません。
パリのポンピドゥー・センターにある作品にここスイスで出会えるとは、何たる幸せ。
« Les trois grâces » 1912 Watercolour on paper Museum Ulm - Dauerleihgabe des Landes Baden-Württemberg
もう一点は《空気、鉄、水》にも登場した《三美神》。古代ローマ・ギリシャ神話に登場する、美、優雅さ、芸術的霊感を司る(諸説あり)女神たちで、古くから絵画のモチーフとして頻繁に描かれてきました。ボッティチェリの《春》、あるいは最近日本で話題になったルーカス・クラナッハの作品など、目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
ドローネーもこの「三美神」を繰り返し描きましたが、幾何学的なフォルムを駆使しながら、きちんと女性的な美・エレガントさを感じさせるセンスに惚れ惚れします。こちらの水彩画は、寒色系でありながら、どこか温かみのある色調でまとめられているところも素敵です。
ということで、チューリッヒ美術館で開催中の「ロベール・ドローネーとパリ」展、そしてロベール・ドローネーについてのレポートでした。
まだ日本ではマイナーかも知れませんが、魅力に富んだ画家なので、是非チューリッヒ美術館や、他の機会でも実際に作品を目にしていただけたら嬉しいです。
パリ好きの方や、ベル・エポック、ラ・フォル・ジュルネ(狂乱の時代)好きの方には一押しの画家&展覧会です!
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どうする? スイスでの誕生日問題
スイスでの誕生日の過ごし方をどうすればいいのか、いまいち分からない......。
うちの場合、10月2日が私、3日が義理の父、4日が夫の誕生日と、奇跡的(?)に3人の誕生日が連続している。
思えば、生まれ年が同じ&誕生日が近いことが、夫と出会った当時、ちょっぴりシンパシーを感じる理由のひとつでもあった。あとは郊外&田舎育ちで都会っ子ではないところ。
ということで、「たぶん、企画好きなお義母さんが何かすることであろう!」と半ば故意に自分での予定組みを放置していたところ、特に何も催されないことが判明(がっくし)。
てっきり「9月末か10月最初の週末のどちらかで家族みんなで食事とか」と言われていたのがソレだと思っていたら、全然関係がなかった。のほほんと待っていたら、結局「10月7日にフォックス・トレイル(Foxtrail)、雨天時は10月の後半に延期」という、全然誕生日は関係のないものに決まっていた。
フォックス・トレイル……街の各所にキツネからのクイズ形式のプレートがあり、渡されたプリントとそのプレートを元にゴールを目指すもの。ザンクト・ガレンでもやってます。
そして1週間前の今になって焦る。どうしよう……。
似た者夫婦なのか、夫も特に何も考えてなかったと。
スイスでの誕生日のお祝いの形式は、誕生日の人が自宅に友人たちを招くことが多いと思う。当日が平日の場合は、近辺の週末に行う人も多い。
そして、基本的に主役がもてなすホスト側(めんどくさい)。
私がスイスに来て誕生日パーティーに参加したのは2回のみだけど、伯父さんの還暦祝いは親戚一同を招待&伯父さんの家にグリルのケータリングを呼んだもの(節目なので豪華)だったし、夫の親友の誕生日も、グリルなので基本の食材は各自持参だったけれど、サイドディッシュやケーキは本人が自作していた。
ゲスト側はちょっとした手土産やカードを渡すこともあるけれど、基本はもてなされる側。むしろ「来てくれてありがとう!」的な感じなのだろうか……?
企画が苦手&そんなに社交的でない私は、日本での小さい家族単位でお祝いするくらいがちょうどいいなぁ、と思います。
そもそも今週末の土曜日は、前にキャンセルになった予定の繰越(=特に誕生日関係なし)で友人が家に来るし、その次の土曜日は夫が友人2人を呼んでカード遊びパーティー(もしやこれが夫の誕生日企画なのか?)、日曜日は家族でフォックス・トレイル。
=週末に予定を組むのは既に厳しい!
ならば平日か、とも思うけど、平日は呼ぶ側も呼ばれる側も結構負担だよね? というか、ちょっと私の気も重い。
昨晩「美穂の誕生日、友達に声かけることもできるよ」と言ってくれたけど、「呼んだところで準備がな〜、っていうか、それは私の友達なのか?(夫の友人たちも好きなんだけどね)」とちょっと内心で思ってしまう。いや、私がニュアンスの取り方を間違えただけで、私の友人ってことだったのかな??
ということで、「私は二人でお祝いする方が好きだから、そっちの方がいいな」と、ちょっとロマンティックな展開などを期待しつつ伝えてみたけれど、タイミングを間違えて、夫が若干うわの空の時に言ってしまった気がする。
夫の誕生日にはお花でも買って、ちょっと手の込んだディナー(当社比)でも作ろうかな。。。それに私の誕生日も込みということで。
そんなこんなで、「もう、何もしなくていいかな〜?」という心境の現在。
スイス在住の日本人&日本人妻の方たちは、ご自分の誕生日、旦那様の誕生日、どうしているのでしょう?
そして夫へのプレゼントも、どうしよう。
スイスでは誕生日プレゼントは日本のように気合いを入れるものでもなく、そこまで値の張ったものでなくていい&手作りも喜ばれる感覚がある。
お恥ずかしい話、ほぼ主婦&学生の今、何か買っても「結局夫の稼いだお金なのでは……」という気持ちが両者間に漂よう気がするし、欲しいものを聞いても特にないと言われる。ケーキでも焼こうかしら……。
当日職場にお菓子を持っていく場合も多いらしい。
「手作りでも、パン屋さん的なところ(Bäckerei)で買ったちょっとしたものでもいい」と夫が言っていたし、というか夫自身のことなので、とりあえず静観しよう……。
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ジャコメッティを常設展で見る。おすすめの美術館 in スイス
アルフレッド・ジャコメッティ
お隣の国フランスはTHE・芸術大国ですが、スイス出身の大物アーティストも結構います。パリで活躍した人も多いので、「あれ、この人、実はスイス人だったんだ!」というパターンもあるあるです。
そんなスイス、国を代表する2大アーティストは、アルフレッド・ジャコメッティ(彫刻家・1901-1966)とフェルディナント・ホドラー(画家・1853-1918)。
特にジャコメッティは、日本の方でファンも多いのではないでしょうか?
ジャコメッティは100スイスフラン紙幣にも肖像と作品が印刷されています。
人間を極限まで引き延ばしたような細長いシルエットのジャコメッティ作品は、実存主義とも結びつけられます。日本でも戦後、サルトルを代表とする実存主義哲学が大いに流行しました。青春時代に親しんだ方も多いのではないでしょうか?
また、ジャコメッティは日本の哲学者・矢内原伊作と知己の仲でもあり、矢内原をモデルとした作品も制作しています。
そんなこともあり、個人的には、何かストイックさと寂しさを感じさせるジャコメッティの作品は、日本人の感性にピッタリと合うものがあるのではないかと思うのです。
チューリッヒ美術館のジャコメッティ常設展示がオススメ!
そんなジャコメッティ、スイスの多くの美術館で作品が展示されています。今年夏にはヴィンタトゥール美術館で、ジャコメッティとホドラーの企画展が開催されました。
でも、旅行者の方をはじめ、なかなか企画展に合わせて美術館に足を運べない方も多いと思います。
そこでオススメなのが、チューリッヒ美術館(Kunsthaus Zürich)。
私は先日、フランスの画家ロベール・ドローネーの企画展を見に行ったのですが(こちらの展覧会も素晴らしかった! 後日、少し気合いを入れて別記事に書く予定)、その後にコレクション展示をウロウロしていると。。。
中二階のようになったフロアに、大量のジャコメッティ作品が展示されていました。THE・ジャコメッティ! というべき、クオリティの高い作品が並んでいます。
ジャコメッティ作品のために特別に作られたコーナーのようで、気合いが入っています。もしかしたら、下手な企画展よりも充実しているかも……?
常設でここまでジャコメッティ珠玉の作品が揃っている美術館は、なかなかお目にかかれないのではないでしょうか。
美術館のホームページを参照してみると、アルフレッド・ジャコメッティ財団(Albert Giacomerri Stiftung)の所蔵作品が、チューリッヒ美術館、バーゼル美術館、ヴィンタトゥール美術館で展示されているそうです。
このジャコメッティ財団コレクション、1963年に個人コレクターによって創立された財団のコレクションにジャコメッティ本人や遺族からの寄贈作品が加わったもの。
なんと170点の彫刻、20点の絵画、80点のドローウィング(2018年9月現在)をはじめとした、大規模なコレクションです。
彼の初期〜晩年の作品までをカバーした大コレクションの中から、とっておきのものがチューリッヒ美術館で展示されているんですね。
また、実はジャコメッティの父、ジョバンニ・ジャコメッティも画家でした。
彼の作品は日本ではなかなかお目にかかれないですが、スイスの美術館では結構見かけます。どうやら色々と実験してみるタイプだったようで、ポスト印象派のあれこれ(点描主義、フォービスム、表現派など)から、象徴主義的な作品まで、様々な画風の作品を残していて面白いです。
ここまで画風が変わる人も、なかなか珍しい! と感心して見てしまいます。
チューリッヒ美術館の基本情報
チューリッヒ美術館の基本情報についてご紹介します(2018年9月現在)。
チューリッヒ美術館(Kunsthaus Zürich)
http://www.kunsthaus.ch/en/?redirect_url=title%3DDommages
↑英語のホームページへのリンクです。
・住所
Heimplatz 1 8001 Zürich
チューリッヒ中央駅(Zürich Hauptbahnhof)からチューリッヒ湖に向かって歩き、湖の左岸にあるベルヴュー広場(Bellevueplatz)の手前を左折。レミ通り(Rämistrasse)に沿って、坂道をまっすぐ歩いていくと到着します。
・開館時間
火曜日・金〜日曜日 10時〜18時
水・木曜日 10時〜20時
月曜日は閉館。
・入場料
企画展+コレクション展チケット
大人 23スイスフラン(学生、高齢者等の割引該当者は18スイスフラン)
団体(20名以上) 19スイスフラン
16才以下の方、車椅子とその補助の方は入場料無料
オーディオガイドは別料金
コレクション展のみ
大人 16スイスフラン(学生、高齢者等の割引該当者は11スイスフラン)
団体(20名) 11スイスフラン
16才以下の方、車椅子とその補助の方は入場料無料
オーディオガイド無料(英語・ドイツ語・フランス語・イタリア語)
そして……水曜日はコレクション展のみなら無料!
夜8時まで開いている日なので、狙い目ですね^^
ビュールレ・コレクション&新館
チューリッヒ美術館は目下、新館の工事中。
今年(2018年)、日本の3都市(東京、福岡、名古屋)で開催された「至上の印象派 ビュールレ・コレクション展」、覚えていらっしゃるでしょうか?
スイス人実業家であるE. G. ビュールレが一人で集めた近代絵画の一大コレクションで、ルノワール《イレーヌ・カーン・ダンベール嬢(可愛いイレーヌ嬢)》、セザンヌ《赤いチョッキの少年》の来日が特に話題になりました。
このビュールレ・コレクション、実はチューリッヒ美術館に移管されたもの。
一度こちらチューリッヒ美術館でお披露目をした後、日本での大規模な展覧会のために貸し出されていたのです。
この新館ができた暁には、日本からスイスに帰ってきたビュールレ・コレクションが加わり、さらにチューリッヒ美術館がパワーアップするはず!
これからも期待のチューリッヒ美術館です♪
(企画展のラインナップも好きなので、年間会員になるか迷っています……!)
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ミュージアムを巡る夜 〜 Museumsnacht in St. Gallen 〜
先週末の9月8日、ザンクト・ガレンで開催されたミュゼウムスナハト(Museumsnacht)に参加してきました(英語だと Museum night)。
これは毎年開催されているイベントで、夜18時〜深夜1時まで、街中の30のアート・文化関連施設が開放されるというもの。
チケットは20スイスフラン(約2,100円)で、街の中ならばバスも乗り放題。美術館のチケットと交通費が高いスイスでは、超お得なイベントです!
街の中心的なミュージアムから現代物のギャラリー、また世界遺産であるザンクト・ガレン大聖堂と修道院図書館も対象になっています。修道院図書館の入場料だけでも普段は12スイスフランかかります。しつこいですが、お得なんです!
パンフレットを見るだけで、この街にもこんなにアート関連施設があったのだな、と嬉しくなりました。中にはビール工場に併設のビール瓶ミュージアムや、石鹸ミュージアムといったマニアックなものも。
チケットをマルクト・プラッツで購入して(各施設入口でも購入可能。上はイベントポスター)、夜の街へと繰り出します。
今回は友人と相談して、それぞれの行きたい場所をピックアップして回ってみました。
夜20時スタートの4時間でも、以下の7箇所を回ることができました。
修道院図書館(Stiftsbibliotek)、ザンクト・ガレン大聖堂(Kathedorale St. Gallen)、ザンクト・ガレン美術館(Kunstmuseum)、アートホール(Kunsthalle Sankt Gallen)、東スイス建築フォーラム(Arkitektur Forum Ostschweiz)、ミュゼウム・イム・ラガーハウス(Museum im Lagerhaus)、テキスタイル博物館(Textilmuseum)
ここからは、特に面白かったものをダイジェストでご紹介します。
まずは修道院図書館から。こちらはスイス最古の図書館。
内部は撮影禁止のため残念ながら写真はないのですが、 中世から収集されている蔵書に感じる歴史、それ自体が芸術作品ともいうべき室内装飾に圧倒される、ザンクト・ガレンに来たら必ず訪れるべき場所。
木造の本棚や手すりの美しく滑らかな造形には、昔のスイスの木工師のレベルがいかに高かったのか、感心するとともに想像力をかき立てられます。
今回は別室で、普段から修道院図書館のメイン展示でもある特大地球儀(St. Galler Globus)を「分解」して見せる、という特別展示を行っていました。
16世紀に作られたというこの地球儀。本物はチューリッヒのスイス国立博物館にありますが、レプリカも非常に精巧で美しいです。
当時、航海に出た人たちの話を聞いて制作したという地図は、意外と(?)正確。海のないスイスにも、当時から世界の姿に対するこれだけの正しい認識があったのだと驚かされる。さすがヨーロッパの知の集積である、修道院図書館ならではの展示です。
個人的見どころは、残念ながらあんまり正しくない日本(極東ですものね)と、重要であるはずのザンクト・ガレンがなぜかポイントされていないところです(笑)。
次は、ザンクト・ガレン大聖堂。
15分間隔で開催されるツアー形式のため少し並びますが、普段非公開の場所に今夜だけ案内してくれるという、出血サービスもの(不謹慎なキリストギャグ)。
まずは大聖堂の地下室へ。こちらは初代修道院長である聖オトマールをはじめ、ゆかりのある人たちが眠っている場所でもあり、静謐な空間になんとも言えない荘厳さが感じられます。
そして大聖堂のメインホールでは、通常は締まっている柵の向こう側=内陣へと案内。
「聖母被昇天」を主題にした祭壇画やドームの天井画、各装飾まで、ダイナミックなバロック美術を近くで堪能することができました。聖歌隊のための椅子に座らせてくれたのも嬉しいところ。木造の慎みも感じさせつつ、こちらもなかなかゴージャスです。
最後は第二の地下室へと案内され、聖歌隊のおじさま達が、美しい響きのグレゴリオ聖歌を披露。そして最後はゲストも一緒に合唱するという、サプライズ&素敵なイベントでツアーは締めくくられました。
ザンクト・ガレンは最初期のグレゴリオ聖歌が伝わる土地だそうで、こういった歴史的価値のあるものに触れさせてもらえるのは、とても有り難いものです。
ミュージアム部門からは、ミュゼウム・イム・ラガーハウスをご紹介。
元倉庫であったのであろう建物に、アート・建築関係のギャラリーや事務所が主に集まっているような、アート複合施設。アートホールと東スイス建築フォーラムも同施設内にありました。この街の現代アート系のスポットになっています。
こちらでは「バックステージ(Backstage)」をテーマに、収蔵品からアウトサイダー・アートを幅広く紹介する展覧会が開催。
アウトサイダー・アート(ナイーヴ・アート、フランス語では Art Brut =生の芸術、とも)とは、正規の美術教育を受けていない人たちによるアートを指すもので、たとえば日曜画家的なアーティストや、精神に問題を抱えた方達の作品が含まれます。
グランマ・モーゼスやアドルフ・ヴェルフリ(彼もスイス人!)が有名。また、最近は日本でも映画『しあわせの絵の具』が話題になったカナダ人画家、モード・ルイスも。美術教育を受けていないという点で、かのアンリ・ルソーをこのカテゴリで考えることもできます。
今回の展示は地域の作家が主で、スイスの伝統的かつ庶民的なモチーフ(地域的祭事、牛や民族衣装を来た人物、伝統的な家屋など)を用いた可愛らしさのある作品も多かったです。そこに同時にどこかプリミティヴ(原始的)な感覚が宿されており、底知れぬパワーを感じさせられる。
この言い得難いエネルギーが、アウトサイダー・アートの魅力だと思っています。展示物のパワーでは、このミュージアムがこの夜一番でした!
ひと晩満喫した、Museumsnacht 。夜のミュージアムには、昼間には見ることのできない表情があり、なかなか乙なもの。同じ目的をもった人たちの熱気を感じながらのそぞろ歩きも、ちょっとした興奮感がありました。
気になっていたけれど足を運ぶ機会がなかった場所への、最初のアクセスのチャンスになる&「今回は行けなかった場所も、また見に行きたい」「またこのスポットはリピートしてみよう」といった気持ちがしぜんと起こる、市民の文化的生活の後押し&文化施設の周知のために、とてもいいイベントだと思います。
また、毎年イベントテーマが設定されており、今年のテーマは「殺人現場(Tatort)」でした。このテーマに合わせた展示・イベントをする施設や、プレゼントが当たる企画もあるので、こちらに重点を置いて参加すると、また違った楽しみ方ができるのかもしれません。
Museumsnacht は9月頃にスイス各都市で開催されているようなので、来年はチューリッヒのものに参加したいな! と今から楽しみにしています。
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