ミュージアムを巡る夜 〜 Museumsnacht in St. Gallen 〜
先週末の9月8日、ザンクト・ガレンで開催されたミュゼウムスナハト(Museumsnacht)に参加してきました(英語だと Museum night)。
これは毎年開催されているイベントで、夜18時〜深夜1時まで、街中の30のアート・文化関連施設が開放されるというもの。
チケットは20スイスフラン(約2,100円)で、街の中ならばバスも乗り放題。美術館のチケットと交通費が高いスイスでは、超お得なイベントです!
街の中心的なミュージアムから現代物のギャラリー、また世界遺産であるザンクト・ガレン大聖堂と修道院図書館も対象になっています。修道院図書館の入場料だけでも普段は12スイスフランかかります。しつこいですが、お得なんです!
パンフレットを見るだけで、この街にもこんなにアート関連施設があったのだな、と嬉しくなりました。中にはビール工場に併設のビール瓶ミュージアムや、石鹸ミュージアムといったマニアックなものも。
チケットをマルクト・プラッツで購入して(各施設入口でも購入可能。上はイベントポスター)、夜の街へと繰り出します。
今回は友人と相談して、それぞれの行きたい場所をピックアップして回ってみました。
夜20時スタートの4時間でも、以下の7箇所を回ることができました。
修道院図書館(Stiftsbibliotek)、ザンクト・ガレン大聖堂(Kathedorale St. Gallen)、ザンクト・ガレン美術館(Kunstmuseum)、アートホール(Kunsthalle Sankt Gallen)、東スイス建築フォーラム(Arkitektur Forum Ostschweiz)、ミュゼウム・イム・ラガーハウス(Museum im Lagerhaus)、テキスタイル博物館(Textilmuseum)
ここからは、特に面白かったものをダイジェストでご紹介します。
まずは修道院図書館から。こちらはスイス最古の図書館。
内部は撮影禁止のため残念ながら写真はないのですが、 中世から収集されている蔵書に感じる歴史、それ自体が芸術作品ともいうべき室内装飾に圧倒される、ザンクト・ガレンに来たら必ず訪れるべき場所。
木造の本棚や手すりの美しく滑らかな造形には、昔のスイスの木工師のレベルがいかに高かったのか、感心するとともに想像力をかき立てられます。
今回は別室で、普段から修道院図書館のメイン展示でもある特大地球儀(St. Galler Globus)を「分解」して見せる、という特別展示を行っていました。
16世紀に作られたというこの地球儀。本物はチューリッヒのスイス国立博物館にありますが、レプリカも非常に精巧で美しいです。
当時、航海に出た人たちの話を聞いて制作したという地図は、意外と(?)正確。海のないスイスにも、当時から世界の姿に対するこれだけの正しい認識があったのだと驚かされる。さすがヨーロッパの知の集積である、修道院図書館ならではの展示です。
個人的見どころは、残念ながらあんまり正しくない日本(極東ですものね)と、重要であるはずのザンクト・ガレンがなぜかポイントされていないところです(笑)。
次は、ザンクト・ガレン大聖堂。
15分間隔で開催されるツアー形式のため少し並びますが、普段非公開の場所に今夜だけ案内してくれるという、出血サービスもの(不謹慎なキリストギャグ)。
まずは大聖堂の地下室へ。こちらは初代修道院長である聖オトマールをはじめ、ゆかりのある人たちが眠っている場所でもあり、静謐な空間になんとも言えない荘厳さが感じられます。
そして大聖堂のメインホールでは、通常は締まっている柵の向こう側=内陣へと案内。
「聖母被昇天」を主題にした祭壇画やドームの天井画、各装飾まで、ダイナミックなバロック美術を近くで堪能することができました。聖歌隊のための椅子に座らせてくれたのも嬉しいところ。木造の慎みも感じさせつつ、こちらもなかなかゴージャスです。
最後は第二の地下室へと案内され、聖歌隊のおじさま達が、美しい響きのグレゴリオ聖歌を披露。そして最後はゲストも一緒に合唱するという、サプライズ&素敵なイベントでツアーは締めくくられました。
ザンクト・ガレンは最初期のグレゴリオ聖歌が伝わる土地だそうで、こういった歴史的価値のあるものに触れさせてもらえるのは、とても有り難いものです。
ミュージアム部門からは、ミュゼウム・イム・ラガーハウスをご紹介。
元倉庫であったのであろう建物に、アート・建築関係のギャラリーや事務所が主に集まっているような、アート複合施設。アートホールと東スイス建築フォーラムも同施設内にありました。この街の現代アート系のスポットになっています。
こちらでは「バックステージ(Backstage)」をテーマに、収蔵品からアウトサイダー・アートを幅広く紹介する展覧会が開催。
アウトサイダー・アート(ナイーヴ・アート、フランス語では Art Brut =生の芸術、とも)とは、正規の美術教育を受けていない人たちによるアートを指すもので、たとえば日曜画家的なアーティストや、精神に問題を抱えた方達の作品が含まれます。
グランマ・モーゼスやアドルフ・ヴェルフリ(彼もスイス人!)が有名。また、最近は日本でも映画『しあわせの絵の具』が話題になったカナダ人画家、モード・ルイスも。美術教育を受けていないという点で、かのアンリ・ルソーをこのカテゴリで考えることもできます。
今回の展示は地域の作家が主で、スイスの伝統的かつ庶民的なモチーフ(地域的祭事、牛や民族衣装を来た人物、伝統的な家屋など)を用いた可愛らしさのある作品も多かったです。そこに同時にどこかプリミティヴ(原始的)な感覚が宿されており、底知れぬパワーを感じさせられる。
この言い得難いエネルギーが、アウトサイダー・アートの魅力だと思っています。展示物のパワーでは、このミュージアムがこの夜一番でした!
ひと晩満喫した、Museumsnacht 。夜のミュージアムには、昼間には見ることのできない表情があり、なかなか乙なもの。同じ目的をもった人たちの熱気を感じながらのそぞろ歩きも、ちょっとした興奮感がありました。
気になっていたけれど足を運ぶ機会がなかった場所への、最初のアクセスのチャンスになる&「今回は行けなかった場所も、また見に行きたい」「またこのスポットはリピートしてみよう」といった気持ちがしぜんと起こる、市民の文化的生活の後押し&文化施設の周知のために、とてもいいイベントだと思います。
また、毎年イベントテーマが設定されており、今年のテーマは「殺人現場(Tatort)」でした。このテーマに合わせた展示・イベントをする施設や、プレゼントが当たる企画もあるので、こちらに重点を置いて参加すると、また違った楽しみ方ができるのかもしれません。
Museumsnacht は9月頃にスイス各都市で開催されているようなので、来年はチューリッヒのものに参加したいな! と今から楽しみにしています。
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